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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)908号 判決 1981年8月07日

原告

有限会社カネヒロ食品

右代表者

吉村義広

右訴訟代理人

江谷英男

外二名

被告

村島缶詰こと

村島俊雄

主文

被告から原告に対する大阪地方裁判所昭和五四年(ワ)第七六五二号売掛代金請求事件の執行力ある判決正本に基づく強制執行は許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

当裁判所が本件につき昭和五六年二月一七日なした強制執行停止決定(同年(モ)第一八二六号事件)および同年三月五日なした強制執行取消決定(同年(モ)第二四九六号事件)はいずれも認可する。

前項にかぎり仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求の原因第一項記載の事実は当事者間に争いがない。

判旨二ところで、確定判決に対する請求異議訴訟は成立した債務名義(判決)の執行力を排除することを目的としているから、通常、右判決にかかる口頭弁論の終結後に生じた事由にかぎり請求異議の原因となりうるわけであるが(民事執行法三五条二項参照)、当初から債権の存在しないことが当事者間で明白であるのに、当事者の一方の混乱に乗じ他方の虚偽の申告などにより、右債権の存在を肯定する確定判決が生ずるに至つたものであつて、右判決による強制執行を肯認することが形式上存在するにすぎない仮空の債権の履行を事実上強制的に実現させることとなる場合には、右強制執行は、著しく信義に反し不当不法を敢行させるものとして、権利の濫用ないし不法行為を構成するものというべきであるから、債務者は、再審の請求などをするまでもなく、権利の濫用などを事由に請求の異議の訴を提起して、右判決の執行力を排除することができるものと解するのが相当である。

三本件についてみると、<証拠>によると、前訴は、第一審においていわゆる欠席判決がなされ、右判決は控訴されることなしに確定し、訴訟手続が終了したことが認められ、また、<証拠>によると、訴外会社は、昭和五〇年四月九日に設立され、食料品の缶詰製造および販売などを業としているものであることが認められ(右各認定に反する証拠はない)、かつまた、被告が訴外会社の取締役であることは当事者間に争いがない。

右各事実に、<証拠>によると、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一)  原告は、かねて訴外会社ら約五〇社から食料品を買受けこれを加工して販売する等の取引をなしていたものであるところ、昭和五四年一〇月三〇日に不渡手形を出して倒産したが、直ちに、その再建を計るべく管轄裁判所に対し和議開始の申請をなし、その整理委員において調査検討したところ、債権額の五パーセント配分することも難かしいことが判明し、それで、昭和五五年六月一七日、原告の債権者委員会は、和議の成立は困難であるから、右申請を取下するほかはないが、原告の再建を期するため、最大の債権者である訴外阪神鶏卵が他の債権者の有する債権をその額面の一〇パーセントをもつて買取り紛争の円満解決を計ることが好ましい旨の提案がなされ、右阪神鶏卵もこれを了承し、そこで、原告の債権者(被告はのぞく。また、訴外会社については、(二)で触れる。)は右提案に従い、自己の債権を右阪神鶏卵に譲渡し、その債権の清算を結了し、右和議申請は同年七月二九日に取下された。

(二)  訴外会社は、当時、原告に対し、昭和五四年八月二三日から同年一〇月二五日までの間に販売した竹の子缶詰七八五個(代金二八一万〇七〇〇円)およびその他の食料品五キログラム(代金四〇〇〇円)の合計金二八一万四七〇〇円相当の売掛代金債権を有していたが、原告の倒産後、訴外会社の取締役である被告により右販売にかかる缶詰の一部が訴外会社へ引揚げられていたところ、訴外阪神鶏卵の常務取締役古田憲太郎は、訴外会社についても前記提案の趣旨に従い売掛代金債権の清算を行うべく、昭和五五年七月一二日、訴外会社に赴き被告(もつとも、右古田は当日被告を訴外会社の代表者村島正男であると思つていた。)と面談して右提案の趣旨を説明し、その了解をえ、前記未払代金から被告申出にかかる右缶詰引揚代金六〇万円を控除した金二二一万四七〇〇円をもつて訴外会社の原告に対する右未払残代金債権額と確定し、その約一〇パーセントに相当する金二二万円をもつて右債権全額の譲渡を受け、即時、右金二二万円を被告すなわち訴外会社に支払つた(なお、右缶詰引揚代金額は、その後の帳簿調査により、金八一万二〇〇〇円であることが判明した)。

(三)  他方、被告は、かつて原告と商品の販売取引を行つたことは一回もなく、また、訴外会社と訴外阪神鶏卵との間の前記(二)掲記の債権譲渡に関する面談に際しても、被告が個人として原告に対し売掛代金債権を有する旨を申出たことはないのはもちろん、本件確定判決の存在することも主張しなかつた。

なお、<証拠>によると、被告は、前訴において、「村島缶詰こと村島俊雄」の呼称を用いて出訴し、前訴の第一審判決は昭和五五年二月二二日に言渡され、被告は、同月二八日にその執行文の付与を、翌三月一二日に同執行文の再度付与を受け、右両執行文(執行力ある債務名義)により、昭和五六年二月二日と四日の両日、原告所有物件に対し強制執行に着手したことが認められ(これに反する証拠はない)、また、訴外会社の有した前記(二)掲記の売掛代金債権と被告が前訴において主張している売掛代金債権とが基本的に同一の内容のものと認められることは、両者の販売の日(期間)、商品の種類・個数および代金額を彼此対比することにより明らかである。

判旨三以上認定の諸事実によると、原告は、被告が取締役をしている訴外会社と食料品の購入取引を行つてきたが、被告個人とは一切売買取引を行つたことがなく、従つて、被告に対し売掛代金債務を負担したこともないところ、右事情を秘して、被告が『村島缶詰』の経営者として前記売掛代金債権を有するが如く装つて出訴し、本件債務名義を取得し、一方、訴外会社を含む原告の債権者らは実質一〇パーセントの配当を受けてそれぞれの債権の清算を結了したが、被告も訴外会社の担当者として右清算結了の事情を熟知しながら、その後において、訴外会社が原告に対して有したと同一の内容の売掛代金債権につき形式上取得したにすぎない本件債務名義すなわち前訴の確定判決により本件強制執行に着手するに至つたものであるから、右強制執行は、著しく信義に反し不当なものであり、権利の濫用として許されないものというべきである。<以下、省略>

(砂山一郎)

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